パトリシア・ギアリー 著
谷垣睦美 訳
佐藤正樹 装画
河出書房新社
2011
book, 2011/01
ストレンジ・フィクション・シリーズの第二冊目です。一冊目のエステルハージ博士の事件簿と比べてみて見ると、どういう風にシリーズ感を設定しているかが分かると思います。造本設計についてはそちらを見ていただくとして、今回は本文の指定について少し。
実際に読んだ方でもあまり気がつかないかもしれませんが、実は本文に平体98%をかけてます。
これはまだ組版ソフトでまともに使えるのがQuarkXpressしかなく、フォントの種類もいまほどなかった時代(そんな時代があったんですねぇ)に考え出した技で、デジタルの日本語組版で読みやすいものができないか試行錯誤した結果です。
これは若干話が長くなりすぎるのでいつかちゃんと書こうと思いますが、明治時代に活版印刷を取り入れる際、文字の仮想ボックスを正方形の四角にしたんですね。これは日本語の文字の歴史を考える時に画期的な事ではあるのですが、同時にそれによる「無理」みたいなものも内包していると思われます。気になる方は、フォントの「し」の字と、筆で書かれた「し」の字とを較べてみるといいと思います。
話を戻して、本文に平体をかける効果ですが、まず単純な話ですが見た目の行長が短くなる訳です。例えば一行45ワードが大体44ワード分に見える。これが一ページ18行とかのカタマリになる訳ですから、その周りの余白に及ぼす影響は大きい。
この余白で人の目は組版の分量を判断しがちなので、実際の分量より少なく見える事になります。それからこれは目の錯覚みたいなものなんですが、漢字についてはそんなに影響がないのですが、仮名が続いた時の塊感が高まります。すると、普通のベタ組みの場合「漢字」「かな」「かな」「かな」「漢字」みたいに見えるものが、「漢字」「かなかなかな」「漢字」みたいになって、可読性が高まるんです。これは説明しても分かりづらいと思うので、ぜひ一度手に取って見てみてください。