works

古王国記Ⅰ〜Ⅲ サブリエル・ライラエル・アブホーセン

ガース・ニクス 著

原田勝 訳

石橋優美子 装画

主婦の友社

2006-2007

The Old Kingdom

book, 2006/08-2007/01

単行本の方で第39回造本装幀コンクール展日本書籍出版協会理事長賞(文学・文芸部門)という長い名称の賞を受賞させていただいたガース・ニクスの長編ファンタジーの文庫版です。単行本は分厚い角背でしたが、文庫はそれぞれを上下に分冊して計六冊になっています。

ご覧のように一冊目から六冊目までの背景が朝から夕暮れまでの一つの風景になっており、主人公の女性の成長がそれに合わせて描かれているという大作です。二冊目と三冊目も単体で見ると分からないんですが、ちゃんと猫の背中がつながっているという凝ったことしてます。

Sabriel

ファンタジーの難しいところの一つは登場人物をどこまで絵にしちゃうか? というのがあると思います。

Lirael

この場合もうひとつ考えられるのは、登場人物をつぎつぎ六冊に出しちゃうパターンもあり得るわけです。

Abhorsen

ここでそれをしなかったのは、この物語が一人の人物の成長物語だと思ったからです。だから絵にする人物は最初から最後まで主人公ひとりと決めました。

なぜなら全てのファンタジーは個人として存在する「どこかにいる誰か」に向けて書かれている。という確信があるからです。そうでなかったらファンタジーは成立しないだろうとも同時に思います。ちょっと話が逸れますが、このことを考えるのにマイケル・ジャクソンっていい例なんですよね。ま、ポップ・ミュージックとファンタジーが同根だという仮定に立っての話なんですが、マイケルは一貫して個人として存在する自分と似ている「どこかにいる誰か」に向けて歌っていたから多くの人に受け入れられて「King of POP」とまで言われるようになったんだと思います。それがHIStory辺りから突然マス・ゲームみたいなのをはじめちゃって人気もガタ落ちになってしまいます。なぜ人気に翳りが出たのかは一目瞭然だと思います。「大衆」に向けて歌いはじめてしまったからです。一人ひとりの個人に歌いかけていたマイケルがHIStoryで銅像を立てて何十万、何百万という大衆に向けて歌いはじめた時に彼のポップ・ミュージックは成立しなくなってしまった。まぁ、あれだけ追いかけ回され、あることないこと書き立てられ、それでまた騒ぎ立てられていたら「世の中」というものへの見方は完全に偏ってしまうだろうし、一人ひとりに丁寧に歌いかけることにも限界を感じちゃうんだと思いますけど。環境問題なんかにも問題意識を持っていればなおさら。それでもそのあとまだ一枚アルバムを出すクリエイティビティを保ててたことに感嘆しますが。

もちろんこの物語が他の書かれ方をしていれば他の人物も登場させますが、この場合は主人公みたいに困惑しつつも状況に巻き込まれ、そこで成長することを自ら選び取る決意をする「どこかにいる誰か」に向けて書かれていた物語だったということです。

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