アリ・S・カーン
ウィリアム・パトリック
熊谷玲美 訳
みすず書房
2021
book, 2021/07
この本の中にこういう一節があります。「既存の感染症を広げている最大の複合的要因は、おそらく気候変動だろう」なぜなら、感染症の媒介生物がより北方や高地などに分布域を広げられるから。他にも、公衆衛生インフラを切り詰めるような政策に対する警告もあります。情報公開の大切さも強調されています。この3年余りでより可視化されたと思われるものが書かれたのが2016年。2020年版に書かれた序文ではCOVID-19について「今後に起こりうるもっと致死率の高いパンデミックの最終リハーサルだ」とも。SARSが2003年。MERSが2012年。COVID-19が2019年。単純計算で9年毎になんらかの新たな致死率の比較的高い感染症が流行しています。新型インフルエンザを勘定に入れると頻度はもう少し高まると考えられます。忘れてはならないのは、これらはすべて「zoonosis(ズーノーシス)」、動物由来感染症もしくは人獣(畜)共通感染症で、動物に感染していたウィルスが「変異」して人間に感染するようになったものだということです。人間が未踏だった地域に入り込んでいって、野生生物と接触するというのは密猟や開発などがきっかけになっているわけで、それが結果的に環境破壊、気候変動をもたらしているというところに帰結していきます。このように「パンデミック」を通してすら見い出せるグローバリゼーションや資本主義などを含む現代の人間活動をどう捉え、考え直していくべきかという見通しを持った本が今後増えていくのは必須だろうし、わたし自身もそういった本に関わることが増えてくるんだと思います。というかそういう視点を持ちながらでないと仕事もなにもままならない時代にあるんだろうなと。