中山康樹
河出書房新社
2012
book, 2012/02
レスター・ヤングからなんとデヴィッド・アクセルロッド、マッド・リブまでを網羅して「ウェスト・コースト・ジャズ(ミュージック)」をとらえ直そうという中山康樹さんの意欲作です。面白いです。
ウェスト・コースト・ジャズというとパシフィック・ジャズやウィリアム・クラクストンの写真に撮られたあま〜いチェット・ベイカー = 白人ジャズというイメージがありますが、それは日本だけでなくアメリカも含めて世界的にも大体同じような認識が一般的のようです。
実は我が家には父親の持っていたアトランティック・レコード編集のイースト・コースト・ジャズとウェスト・コースト・ジャズという2枚で一組のレコードがあるのですが、そのジャケットでもイースト・コースト・ジャズには黒人ミュージシャンのみ、ウェスト・コースト・ジャズは半分が白人ミュージシャン。しかも西海岸出身のミンガスがイースト・コーストの方にいるというくらいですから、業界にもそのイメージは浸透していたのでしょう。
そもそも本書は「ジャズの生誕地はニューオリンズではない」というくだりから入ります。読んでみるとそうかと思うようなことなんですが、しかし「定説」というものの恐ろしさを改めて感じさせられます。
余談ですが、たしかマイルス・デイヴィスもチャールズ・ミンガスも自叙伝で、「ジャズは結局『サッチモ』と『デューク』になるんだ」というようなことを言っていて(ミンガスはデュークだけだったかも)、そういうことも「定説」の「定着」に役立っているのかもしれません。
カバーの文字は作字しました。ジャズのジャケットに使われていたような、そうでないような。昔風のような現代風のような文字を意図しています。本書がウェスト・コーストのイメージに疑いを差し挟んで、それを揺るがそうとしているので、「ありそうで実はないもの」がコンセプトです。子供のときから家にあったジャズのレコードを見てきた経験と、その後もジャズを含めさまざまなレコードを集めてきた経験が役立ってくれていると思います。
紙はカバーから帯、表紙、本扉とすべてビオトープGA-FSです。決してフラットに仕上がらない、印刷後のこの紙の風合いがまた効果的だったと思います。
本書とは全然関係ないんですが、この本を担当させていただいた後、偶然「西海岸」の「白人女性」ベーシストのキャロル・ケイという人を知る機会があり、これが驚愕でした。「モータウン」のベースといえば「黒人」のジェームス・ジェマーソンが定着したイメージですが、実は名曲、名演奏と評価が高いものの中にキャロル・ケイが演奏したものが含まれているんだそうです。しかも、ビーチボーイズやドアーズのレコードでのベースも彼女だそうで。ようやく最近になってエレクトリック・ベースの母という評価がきちんとされるようになったそうです。彼女の伝記があったら読みたいなぁと思っているんですが、どなたか!